【映画】ダラス・バイヤーズクラブ(Dallas Buyers Club)

音楽・カルチャー

余命30日前に訪れる天命

金曜日。ラジオから流れる近日公開の映画情報を聞き、興味を持った「ダラス・バイヤーズクラブ」。ヒューマンドラマは本を読むのと同じように学ぶことも多く、ノンフィクションであればなおさら好きでして。翌日、封切と同時に映画館を訪れ、早速観賞。久しぶりの映画でしたが、期待以上の内容に、大いに刺激を受けてきました。

あらすじ(公式サイトより)

男の名前はロン。ロデオと酒と女の日々をおくり、ある日ロデオで賭けをするが、負けると金を払わず逃げ、その日暮らしのトレーラーハウスに戻った瞬間に、 膝から崩れ落ちる。病院のベッドで目覚めると、医師が彼に告げた。HIVの陽性反応が出て、余命30日であることを。有名俳優のロック・ハドソンがエイズであることが公表され、同性愛者しかかからない病気、そんな根拠のない噂が蔓延していた時代。同性愛者でもないのになぜ!?と納得できないロンは、図書館で新聞記事を閲覧し、情報を漁る。そして自分はエイズであるという真実がつきつけられる。生きたい欲求にかられた彼は、自分を診察した女性医師イブを訪ね、AZTという未承認の薬を処方してくれるように頼むが、断られる。そこで彼はメキシコへ渡り、毒性の強いAZTではなく、アメリカでは未承認だが効果 がみこめる薬を国内に持ち込み、患者たちにさばき始める。彼に慈善の心などなかった。素行が悪く、ゲイ・コミュニティーに嫌悪感を持つロンが、販売ルートを広げるのは難しい。そこで彼は、美しいトランスジェンダーのレイヨンを仲間に引き入れる。日本をはじめ、世界中から仕入れた薬をさばくために考え出したシステムが「ダラス・バイヤーズクラブ」だった。会費を募り、必要な薬を無料で配る。名目的に薬の売買はない。その彼らの前に立ちはだかったのが、AZTを推奨し始めた医師たちと製薬会社に政府。ロンは、弁護士を使い、“個人の健康のために薬を飲む権利を侵害する”国の動きに対して徹底抗戦の構えをとる。彼を見殺しにしようとする世界に対する戦い。一人の男が、生きる権利のための戦いに挑んでいく。(以上、公式サイトより抜粋)

天命など待っていたって来ない

人生は一体何が起こるか誰にもわからない。突然の死の宣告に”自分ならどうするだろうか”と重ね合わせながら見ていた。事実を受け入れられないまま死ぬか、いっそ開き直って楽になるか、どちらにせよ結局は犬死していただろう。きっと、この映画を見るまでは。

「日々生きるのに精いっぱいで生きた心地がしない」。印象的だったロンがイヴに語るこの台詞。一方で自分に死を考える時間も与えないほど邁進し、ダラス・バイヤーズクラブはHIV患者たちにとっても対峙する政府にとっても大きな存在へと成長する。ロンの動機は至極個人的な「死にたくない」と言う気持ちであり、ダラス・バイヤーズクラブは「自分はまだ生きている!」という製薬会社や政府、そして神への抵抗から派生して起こった出来事だったとしても。ロンは天命も気づかないほどに必死で人生を駆け抜けた。

一方、現代において、懸命に生きていない人間が、わが人生を見つめ直す時間ほど無駄なことはない。自分探しと言いながら考えているだけでは、一生探し続けたところで一歩だって前へは進みはしない。もて余した時間を浪費し、自分を慰め、憐み、できない言い訳を探すだけのなんら生産性のない作業の繰り返し。後ろを振り返っている時間ほど不毛なものはなく、何も実現できないまま人生を終えるのだろう。

事を成し遂げる上で、突き動かす動機のような何かを「天命」と言うならば、そんなものはきっと死ぬ時に気付くものなのかもしれない(死ぬ間際に自分の人生を振り返っている余裕なんてあれば、の話だが)。がむしゃらに生きる、たとえその動機が、死への恐怖からであったとしても、だ。つまりは、生きとし生ける者すべてがロンと状況は大して変わらない。死の宣告されているかされていないか、それだけの違いで、つまりは自分にだってすでに大きな動機はあるのだ。

死の宣告からの約8年間。製薬会社や政府、そしてHIVと闘い続けた男の記録がそのことを静かに、激しく物語ってくれる。何度も繰り返し見る内容の映画ではないからこそ、映画館で目に、心に焼き付けることをオススメします。

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