【本】10年たっても色褪せない旅の書き方/轡田隆史(PHP新書)
「観光客」から「旅行家」になるために
皆さんは普段から文章を書くことがあるでしょうか。「読書すらしないのに文章を書くなんてもってのほか」なんて声が聞こえてきそうですが・・・。
せっかく旅をするなら特別な旅にしたい、とは誰もが思うこと。しかし、名所や特産品などの下調べは入念に行うものの、旅程が終わればその旅も終わり、と行きっ放しで終わってはいないでしょうか。
写真を山ほど撮り、人によってはビデオまで回し、たくさんの思い出を詰め込んだ気でいる。しかし、その時に抱いた感動や気づきは記録メディアの中に詰め込むことはできません。時間と共に色褪せ、いつしか遠い記憶となっていくのです。
(10年たっても色褪せない旅の書き方/轡田隆史)
著者は、旅を特別なものするためには文章に残すことが最も効果的だ、と言います。そして、記録として書き残すだけではなく、書くことを前提に旅を考えることで旅の持つ意味が具体化され、深みのあるものに変わる、とも。
そもそもその旅の目的・意義はなんでしょうか。旅に出る前に自分に問いかけてみてください。”名所を見物する”でもいいし、”グルメを楽しむ”でもいい。しかしそれらを余すことなく五感で感じる準備はできているでしょうか。
バスに揺られ、名所を観て回る観光ツアーはどうしても受け身になりがちで心には残り難い。しかし、文章に残すことを前提に旅を考えることで、自らが旅を脚本・演出することになり、目的もより具体的で明確になります。すると旅自体にもストーリーが生まれ、自分だけの特別な旅が始まるのです。
たとえ拙い文章でも誰が見ているわけでもない、多少気障でも作家になった気分で文章を書くことで、単なる「観光客」から一人の「旅行家」になり、旅そのものに奥行きが生まれるのだと言います。
(書くことで旅を脚本・演出する)
こうしてブログを運営していれば旅を記録することもあるでしょうが、自己顕示欲が強い方ばかりではありませんし、プライベートを他人に晒すことに抵抗がある人の方がどちらかと言えば多いはず。
だからと言って、書き留めなければ(文字にしなければ)その時に抱いた感情は時間と共にこぼれ落ちる砂のように流れ落ちるだけで何だかとてももったいなく感じます。
この本は、文章を書くことに不慣れな人に動機を与えてくれると共に、旅の視点も変えてくれます。旅と向き合う姿勢が変われば映る景色も様変わりするでしょう。
唯一の難点は、文例や説明が幾分古臭いこと。どちらかと言えば団塊の世代以上の旅行好きな人に向けて書いたような文章で、私にはちょっと抵抗はありました。
しかし、日頃から文章を書くことに親しんでいる人にとっても、目的を捉えた文章の書き方や文章の膨らませ方など、エッセイストになった気分で文章を書く面白さを感じさせてくれます。
さらにノート活用術なども併せて読むと、自分だけの特別な一冊ができあがり、書く楽しみもさらに増すでしょう。
日帰り旅行から海外旅行まで、旅に特別な思いを込めるなら、ガイドブックだけでなくこの本も手に取り、一読されることをオススメします。
TAGS: 轡田隆史 | 2015年3月26日