【本】「戦国大名」失敗の研究/滝澤中著(PHP文庫)
合戦より面白い政治の駆け引き
司馬遼太郎の歴史小説にどっぷり浸かった高校時代。
KOEI(現コーエーテクモ)の「信長の野望シリーズ」にも熱中し、日本の歴史の中でも特に大好きな戦国時代ですが、ゲームでは語られることのない歴史に秘められた伏線や背景、心理戦などの時代の裏側を垣間見ることができ、合戦以上に面白い政治の駆け引きを知ることができるのが本書です。
大変面白く一気に読み上げた後に、ふと現代となんら変わらない人間の行動を見ることとなり、実例を踏まえた一種の行動哲学を読んでいたことに気が付きました。
(「戦国大名」失敗の研究/滝澤中著)
戦国時代に散った武将たちの分岐点はどこであったのか、敗者の歴史をたどってみると、ちょっとした判断の差が分水嶺となり明暗を分けることがよくわかります。
ここで取り挙げられている武将は、どれも能力が劣るわけでもなく、むしろ他より秀でた能力の持ち主だったと言えます。ではなぜ彼らは敗者になってしまったのか、辿ると面白いことが次々と浮かび上がってきます。
その勝敗を分けた判断は時代を読む嗅覚だけでなく、一族内の影響力やこれまで築いてきた人間関係が深く影響ていることがわかります。
また、その判断は当の本人のみならず、読者である我々が同じ立場でも同様の判断を下していただろうと思うほど、ごく自然の流れで下した判断であることを知ることとなり、果たして過った判断であったと言えるか疑問に思えてきます。
当の本人たちも最良の答えであると思いながら判断を下しているに違いなく、結果的に敗者となった彼らの判断が間違ったかと後世になって問えるかと言えば難しいのではないでしょうか。
しかし、現代であればやり直しの効く一度の判断ミスや過ちも、命取りになるのが戦国時代。最終的に合戦となり、敗者という形でその差がはっきりした形で現れてしまうのですから儚いものです。
豊臣秀吉が天下を獲ったのは中国大返し、清州会議などでの成功が大きく影響していますが、その実現には日頃の人間関係によるところが大きく、また徳川家康が豊臣家を滅ぼすまでの詰将棋のような駆け引きもまた、人間の心理が大きく作用していると言えます。
著者はこれを政治力といい、近代政治における類似点を示して、現代の政治においてもまた同じような駆け引きが繰り広げられてきたことを知ることができ、非常に興味深いです。
政治というと、個人の感情の介入する余地もない、至極崇高なもの、という印象がありますし、我々大衆はそうであることを常に求めていますが、政治を動かすのは1人の人間であり、その人の持つ政治力とは政治のイメージとはかけ離れた、とても生々しく、人間臭いものであるように思えます。
(勝者以上に敗者から学ぶことは多い)
あらゆる選択肢から優先順位をつけ、次に起こる状況を想定しながら慎重に駒を進める。これは現在の外交でもよくあることですし、企業経営においても言えることだと思いますが、私は恋愛などもまた政治力と重なるところがあるような気がします。
先読みする力、人を引き付ける力は社会において優位に生きるために必要不可欠な能力であると実感することができます。
戦力は互角、勝敗を決する差は紙一重だった、と言われる戦いの敗者にフォーカスし、敗者たちの取り巻く環境や行動を読み解けば、私たちは今もなお先人たちから現代に通ずる、生きる上での教訓を多く学ぶことができます。
こうしてみると、敗者から学ぶことは勝者以上にあり、我々も日々、勝者と敗者の間を往来しながら生きていることに気付かされ、丁寧に、慎重に、生き抜くため常に考えて行動することの大切さを今一度考えさせられるのでした。
予備知識として多少戦国時代の登場人物がわかっておく必要はありますが、ぜひご一読いただいて損のないオススメの一冊です。
TAGS: 滝澤中 | 2014年8月12日