【本】アメリカ市場創世記-1920~1938年大恐慌時代のウォール街/ジョン・ブルックス(パンローリング)
久しぶりに読んだ本について記録しておきたいと思います。
せっかく買って読んだ本は自分の身になっていることを確認するためにも、内容を振り返りながらブログでまとめていきたいと思っていますが、なかなか思ったようにはいきません。
あとでもう一度読み返してから・・・と思っていたのですが、積読していると次の本が常に控えているので、このままですとどんどん溜まる一方。こうなれば記憶が鮮明なうちに書いてしまおうと思います。
今回は米国株に関するニュースサイト「Market Hack」を運営し、マネックス証券他数々の証券会社でオンラインセミナーを務める、広瀬隆雄氏オススメの一冊について。
(簡単なあらすじ)
ITバブルやリーマンショック、今般の中国株急落に端を発した世界同時株安など、株式市場には常に人々の熱狂と絶望が渦巻いている。これらの歴史の中で最も象徴的な出来事は1929年の「暗黒の木曜日」だろう。
本書は1920年代の強気相場とその後の大恐慌を背景に、1920年のJPモルガン本社爆破テロ事件からニューディール政策、そしてリチャード・ホイットニー元ニューヨーク取引所社長の横領有罪判決までを通じ、ウォール街とそこに生きる人々の様子を鮮明に描写し現代に伝えている。
ロンドンに代わり、ニューヨーク証券取引所が世界の金融市場を牽引し始めたこの時代、金融市場では未だ特権階級が合法的にインサイダー取引で多額の利益を享受し、取引所はプライベートクラブと化していた。
そこに訪れた「暗黒の木曜日」と大恐慌は、その後25年間見ることのできない水準にまで株価を叩き落とす結果になり、政府の介入によってウォール街もまた大変革が求められるようになる。
(アメリカ市場創世記/ジョン・ブルックス)
この物語はウォール街とそこに生きる人々の金融市場を巡る人間ドラマですが、様々な登場人物の中でも特に注目すべきは、物語中盤から中心的人物として描かれるリチャード・ホイットニーNY証券取引所社長の凋落ぶりでしょう。
ホイットニーは当時のサロンのようなウォール街のまさに象徴的な存在であり、著者はホイットニーに当時のウォール街を重ね、不屈で完全な存在と思われた存在が、まるで砂の城が波に削られ崩れ去るように瓦解していく様子を、リアルに描き出しています。
公に見せる姿とは対照的に、まるで坂を転げ落ちるように借金を膨らませ破滅へと向かうホイットニーの末路は、仕掛けられた網に魚が追い込まれていくように、少しずつ、でも確実に袋小路へと向かう中、その絶望的な中にあっても威厳を失わないホイットニーの姿にある種の滑稽さすら感じます。
徐々に酸素が薄くなっていくような閉塞感。諦めとも開き直りとも取れるもがきが、さらにホイットニーを身動きの取れない状況へと追い込み、最後は横領という形で自ら終止符を打ちます。
今でもなお繁栄を続けるウォール街ですが、時代と共に様相はガラリと変化しています。モルガン家を中心に繁栄を極めた1920年代から30年代のウォール街と、”選ばれた者たち”だった人物の栄枯盛衰には哀愁を感じざるを得ません。
また、このたびの中国の信用不安に端を発した株価暴落と、その後の中国政府の大規模な市場介入や施策を目の当たりにする中、ちょうどこの本を読んでいたこともあり、まるで当時の米国の混乱ぶりを見ているかのようでした。
暗黒の木曜日から始まる株価の大暴落と関係者の対応株式市場の混乱ぶり、そして翻弄される人々の様子は、今回の世界同時株安などにも重なるところが多く、株式相場とどう対峙するか、株取引をする全ての人にとって興味深い一冊だと思います。
無機質な金融市場にあって、そこに描かれる人間ドラマはどれも人間味に溢れています。それは欲望渦巻くウォール街が昔も今も人々を惹きつけ、人間の本性を暴き出しているからなのかもしれません。