靴をビスポークする目的、履くシーン、そして込める思いを考える
コミック「IPPO」全5巻を読みました
僕がビスボークシューズの制作を検討中であると知ったまるすけさんから、若き靴職人 一条歩の工房での日々を描いたコミック、「IPPO」(えすとえむ著、集英社)をご紹介いただきました。
2月末に、とある工房にお邪魔をして、色々とお話を伺おうという段階でしたので、ビスポークシューズについて予備知識を得るためにも事前に読んでみたくて、早速購入。通勤電車内でページをめくるのがしばらくの間の僕の楽しみになりました。
(依頼者と職人、双方の思いが描かれる)
この作品を通じて感じるのは、靴を作る上での表面的な理由・目的の裏に、その人なりの思いが込められているということ。作品中には、怪我からの再起であったり、新たな旅立ちといった、依頼者の思いを載せた靴の制作工程が綴られています。
当然、もっと気軽な気持ちで制作を依頼したっていいと思いますが、対話をしながら一から作り上げること、自らも制作に加わること、それなりにお値段も張ることなど、ビスポーク靴は依頼者にとって感情移入しやすく、思いも込めやすいのがビスポーク靴なのでしょう。
モノに対し愛着を持って長く付き合いたい質の自分にとっては、特別な思いを感情移入しやすい点ではうってつけなのかもしれません。一方で、感情移入するならば、それなりの思いや理由を醸成しなければなりません。
その意味では、長年付き合ってことになる靴の制作を通じて、デザインを考えるだけではなく、なぜ靴を作るのか(現状の問題解決)、その靴を履いて自分はどう変わりたいのか(将来の展望)など、今の自分と向き合ういいきっかけにもなったと感じています。
作品中には、胸に刺さる名言も随所に出てきます。
「職人の技術と 想像力と 靴への愛情 それがはく人の人生と重なる時 そこに魔法はあるのかもしれません」(第1巻、エピソード0)
「狭いアパートに住んで高級車を乗りまわす 安い服に見合わないブランドもののバッグ 靴だってそうだ 何を持つかじゃない どのブランドのを持つかが重要 そんな価値観の元に 文化が育つとはとても・・・」(第1巻 エピソード5)
「手だけで仕事をするものは労働者である 手と頭で仕事をするものは職人である 手と頭・・・そして心で仕事をするものは芸術家である」(第2巻 エピソード11)
中には知識過多の少々厄介な客が出てきたり、名言も含め考えさせられることも多く、今後もずっと読み続けたいと思わせてくれる作品だっただけに、5巻で終わってしまったのが残念でなりません。
しかしおかげで、動機も理由も以前より明確になりましたし、思い描く靴もより具体的になりました。実際にお話をしてみて、これからどんな風に具現化されていくのか、楽しみたいと思います。
素敵な作品に巡り合わせてくれたまるすけさんには、改めて感謝申し上げます。ありがとうございました!