【本】一切なりゆき~樹木希林のことば~(文春新書)
昨年9月、惜しまれつつ亡くなった女優・樹木希林さん(享年75歳)の生前の言葉を集めた一冊。
乱読する本の中でも特に異彩を放ち、語られる言葉に笑いと安堵感をもたらすと共に、心の底に沈んだ不安という澱をすくい取るような力を持つ、印象深い一冊でした。
全身がんの告白後も、相変わらず飄々と立ち振る舞い、多くの作品に出演。
誰よりも自分を俯瞰し、良いことも悪いこともありのままを受け入れ、時に辛いことも面白がる樹木さんの生き方、そして折に触れて語られる独自の考え方や死生観に、多くの人が引き寄せられ、共感を集めました。
樹木さんが生前に語った”生きること”や”家族のこと”、”病やカラダのこと”に至るまで、ギュッと詰まったこの一冊には、在りし日の樹木さんそのままに皮肉とユーモアがたっぷり(笑)。
読んでいると思わずクスッと笑ってしまうことが多く、しかし、その根底に流れる悲観でも諦めでもない、達観や悟りにも似た淀みない思想が垣間見え、読み終えた時、今まで抱えていた執着や不安をきれいに洗い流してくれる不思議な力を持っています。
「与えられた命・カラダを使い切って死にたい」という樹木さんの生き方には、生きとし生ける全ての人にとって生きる上での目標となり得、また自分という存在と正面から向き合うことにもつながると思います。
現代にはどこか生き難さ、窮屈さが漂っていますが、樹木さんの生き方や考え方に触れるたび、もっと素直に、もっと自分のために生きていいのだ、と思えて、ふっと肩の力が抜けるのを感じました。
一度読んだら十分という本も多い中、樹木さんの言葉は繰り返し読むほどに味わい深く、人生に悩んだときに立ち止まって読み返したくなるような、常にそばに置いておきたい一冊。久しぶりに良い本に巡り合えました。