【本】番犬は庭を守る/岩井俊二(文春文庫)

2012年刊行された岩井俊二氏の小説「番犬は庭を守る」が今年に入り文庫本化。これまで機会を逃して読まず終いでしたので、ちょうどいい機会だと思い手に取りました。

あくまでも現実離れしたSF(サイエンスフィクション)、そんな風に思えれば心も穏やかに読めたのでしょうが、その世界感は妙にリアルで、一言「悲惨」が突いて出るほど、読みながら絶句し、いささか気分が滅入りました。

原子力発電所が爆発し、臨界事故が続発するようになった世界では、放射能汚染による精子の減少と劣悪化が深刻な問題となっていた。優良精子保有者である「種馬」の精子は民間の精子バンクが高額で買い上げ、その一家には一生遊んで暮らせる大金が転がり込んで来る。一方で、第二次性徴期を迎えても生殖器が大きくならず、セックスのできない不幸な子供たちは「小便小僧」と呼ばれていた。高校を卒業し、警備保障会社に就職をした小便小僧のウマソーは、市長の娘に恋をした罰として、使用済みの核燃料や放射性廃棄物で溢れる、廃炉になった原発を警備することになる。やがてウマソーの性器は徐々に失われ…。人々が原子力を選んだ結果、生まれてしまった世界。だが、それでも紡がなければならない未来がある―。

「BOOK」データベースより

2011年3月11日に発生した東日本大震災の翌年に刊行されたこの小説。原子力発電所が次々と爆発し、人体に多大な影響を与えるという内容は、震災を経験した日本人にとって、単なるフィクションと割り切ることはなかなかできないでしょう。

放射能による影響で精子は減少、生殖器は異常を来し、汚染された環境により臓器はやられ、貧しい者はあっけなく死に、富める者は豚で培養した臓器を移植し生き永らえる・・・。決して無くは無い未来の姿にも思え、そのリアルさが終始不安感を駆り立てられます。

そして主人公ウマソーに次々に降りかかる災難。悲惨なストーリーにも関わらず、痛快なまでに急転するストーリーは読み手に休む暇を与えず、転がり落ちる先に更なる絶望が待ち受けていて、目が離せなくなります。

暴力的で差別的、読む人は皆眉をひそめるような内容ですが、散々読む人を気後れするようなことを書き並べておいて何ですが、内容はとにかく面白い!

最後に垣間見える、絶望の中に見るわずかな希望。この小説の中に見る唯一の救いに読者は皆がすがることでしょう。もしこの話に続きがあるのなら、わずかな希望が途切れることなく未来につながってくれることをただ祈るばかりです。

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