【本】20代で得た知見／F（KADOKAWA）
「たまには実用書ではない本も」と手に取った本。タイトルからしてさぞ有難い先人の人生訓が並んでいそうなものだが、この本に格言めいた言葉はなく、並ぶのは１人の男が実際に経験し、その時々で感情を揺さぶった言葉、シーン、そして出来事の数々だ。
何かと白黒つけたがるこの世の中にあって、世間にはどちらともつかないもの、どうしようもないことで溢れている。
不条理な出来事（連日報道される事件・事故のニュースからごく個人的な失恋まで）に対する怒りや憤りといったやり場のない感情やその後に訪れる虚無感や孤独感。時に自己嫌悪や寂しさに押しつぶされそうになることもある。
そんな多感な20代に誰もが経験する心の傷や憂鬱を、この本は解決こそしてくれないが、寄り添ってくれる。
人には絡み合った複雑な事情があり、答えのない問題があり、様々な形の幸せがある。この本を通じて、ありのままを受け入れ、どんな結末もまた肯定的に捉えられるように感じ、救われた気持ちになる。
もはや痛みを忘れかけた40過ぎの古傷にさえそんな風に感じるのだから、20代の生傷には効かぬわけがない。読み返すたびにその時々の心に響く言葉があり、新たな学びがある。
示唆に富んだその内容は、20代だけでなく、30代はこれからの自分を、40代は後輩たちを、50代は自分の子供たちを支え導くための一助になるかもしれない。
一度読むだけではなく、枕元に置いておき、孤独を感じる夜に読み返したい。肌に感じるぬくもりよりも温かい、夜の街に灯るネオンに覚える安らぎに似たそれを、この本からは感じることができるから。
2020年11月29日
