キヤノン（7751）第113回定時株主総会へ出席した所感
３月28日、キヤノン（7751）の定時株主総会に行ってきました。毎年３月総会はアサヒグループHD（2502）に行っておりますが、そちらは過去３年連続で出席しており、見る限り業績も順調そうなので今年はキヤノンのみ。
キヤノンは保有銘柄のうち唯一マイナスになっている銘柄でして、実際に経営者の話を聞いてみたいと株主総会会場となる本社のある下丸子へ。
今回は長いので一応目次を付けてみます。所感だけご覧になりたい方は目次中、目次で項目をクリックすれば飛べます。
事業報告の主要な内容
映像で流れた事業報告の趣旨については以下の通り。
- ムーディーズの格付は日本トップのAA+
- フリーキャッシュフローは２か月分以上を維持
- 25年連続減配なし
- 自己株取得も積極的（過去9,000億円実施）
- 期末配当65円、通期130円
- 株主資本69％で世界トップクラス
- 医療分野へ参入（遺伝子判定装置など）
- ３極体制（アジア、アメリカ、ヨーロッパ）US市場は日本企業の中で１位
- フィリピン、タイ、ベトナムでも消費地生産積極化
- コストとリスク＝最適生産体制の構築
対処すべき課題
御手洗会長兼社長から口頭で説明があった５項目は以下の通り。
- ヒット商品の創出
- 新分野の開拓（ネットワークカメラやＤＮＡ診断装置）
- 全世界での販売力アップ
- 最適生産体制（消費する国で生産）
- 新次元でのコストダウン
（めちゃくちゃ広いキヤノン本社）
株主質問
以下株主質問です。途中で帰ったので４問までですが、結構鋭い質問もあってどう答えるか気になりましたが、なかなかの答弁でした。
質問１（配当を増やし企業価値を向上させよ）
製薬会社のようにもっと配当を多くすれば企業価値も高まる。自ずと株価も上がるのでは？
回答１（企業価値の判断基準は様々）
社長：企業価値の向上は取締役全員の最重要課題。企業価値の判断基準は様々あるが、１つに時価総額がある。日本においてキヤノンは４兆２千万円で13位、製造業では５位。営業利益でも13位と５位。格付は日本企業最高のAA+。配当も95年の12.5円から現在130円に高まっている。
就任から最初の５年は借金返済、次の５年でデジタル化（飛躍期）就任９年目にリーマンショックに見舞われたが減配はせず、借金完済後の2007年からは配当性向30％を止め、その後の配当性向は44％（2008）、103％（2009）、60％（2010）、51％（2011）、67％（2012）、64.6％（2013）。お約束はできないが先を楽しみにお待ちいただきたい。
質問２（株価低迷、為替是正効果無ければ営利マイナスでは）
株価が低迷している。アベノミクスで日経平均株価全体は25％も上がっているのに、キヤノンは0.3％下がっている（リコーが23.3％）。経営陣は反省と株主に対し謝罪をすべきではないか。
営業利益は前期比134億円しか上がっていない。大幅な為替押し上げ効果は2,000億円と言われているので、為替効果がなければ営業利益はマイナスだ。株価低迷はそんな市場の失望からだ。
ムーディーズのAA+を声高らかにいうが、企業業績が良いから評価されたのではない。この評価は債権がデフォルトするリスクを評価したもの。キャッシュがダブついているのだから当たり前だ。勘違いするな。
回答２（株価はEPSと連動、キヤノンのEPSは元々高い）
社長：株価は複雑な要素で変動する。企業がコントロールできるものではないが、株価向上に間接的に関わるとしたら企業価値の向上が１つの方法。株価は圧程度EPS（１株利益）に連動すると考える。EPSの伸びについて、電機は+111％の株価上昇に対しEPSは5.12円から12円、電子は+70%の株価上昇に対しEPSは6円から11円。EPSが元々低いから株価も上がるのは当然。しかしキヤノンは元々EPSが絶対的に高い。
同じ業界でキヤノンより高い株価の企業はない。日本の産業の中心は自動車業界だが、我々の業界はそれに半年ほど遅れる。このままいけば下期に良くなるのではと考える。
質問３（社長はいつまでやるのか。老害ではないか）
社長は79歳。若い人が意見、モノを言いにくいのでは。はっきり言って老害ではないか。
回答３（老ではあるが害ではない、回復確認で次に引き渡す）
「老」ではあるが「害」ではない。リーマンショック時に一度計画を破り捨てた。だから海外子会社のトップについても世代交代を見送った。不況は長期化するものだから。今は年寄りばかりだが、不況を切り抜けるにはベテランの力がどうしても必要。キヤノンが８期連続増収した頃のように世界経済が回帰するのを見届け、安心して次に引き渡したい。
日本はトップが「あがり（ゴール）」ポジションだから長居すると批判を受ける。しかしキヤノンの役員は朝７時には皆出勤している。これはキヤノンの昔からの伝統。役員は誰よりも働いている。
質問４（内部留保を吐き出し日本経済に貢献せよ）
キヤノンは大企業病に侵されている。まず。製品に欠けている。医療用機器の開発も６ヶ月ほど前倒ししろ。次に内部留保が多過ぎる。キャッシュは３ヶ月程度、１兆円もあればいい。余った分は日本の経済に寄与しろ。
回答４（企業の役割は果たしている。2016年史上最高益を目指す）
社長：企業の役割、公的には「雇用」と「法人税」、企業単体では「社員生活の向上」と「株主への高いリターン」。キヤノンはこの４つとも守っている。過去リストラをしたことはないし、毎年1,200億円以上法人税を払っている。
製品は遅れているが（お見せできないが）手元に17項目のリストがある。2016年には史上最高を達成できるはず。過去５年は防衛の時代だった。これからは攻め。もう少し待ってほしい。
世界は競争の中にある。自己資本の厚い会社が日本にはない。海外を見ればＩＢＭ、デュポン、３Ｍ（他５社ほど列挙）など、しっかり蓄えがあってこそ戦える。蓄えがなければ競争にも勝っていけない。
（関係ないけど新丸子駅前の飲食店の看板犬。やる気は無さそう）
ここまで大体11:20、聞きたいことは大方聞くことができたので席を立ちました。
所感
急がれる新製品開発、回答はおおむね満足
株主総会の答弁を通じて御手洗会長の印象は変わりました。それまで正直、私も古狸で、老害では？なんて思っていましたから。
データで裏付けされた回答には説得力があり、結構核心を突く鋭い質問もありましたが、自社の強みであるEPSや自己資本、格付けなどを理由に上げて、自社の強みに置き換え上手く回答していたように思います。
為替効果が無ければ営業利益はマイナス、についての質問については唯一納得のいく回答が無かったように思いますが、EPSだって何度も自社株買いをして支えているところがありますから、営業利益についてはやはり苦戦しているのでしょう。DNA診断装置やネットワークカメラなど、次の分野の新製品の開発が急がれます。
今回、社外取締役を置いていない企業として動向が気になっていましたが、本総会で社外取締役を２名選任しましたね。東証の上場規定改正で必要となった、社外取締役を置かないことの理由説明はちょっと聞いてみたい気もしましたが。
投資をする目的によって企業に求めることは様々
投資をする上で、人にはそれぞれ目的があって投資をしているのであって、キヤノンに関して言えば、私は株価上昇（キャピタルゲイン）ではなく、安定した配当金（インカムゲイン）を期待しています。
ですから、今回の株主総会で企業経営の安定感と先行きの見通しを聞くことができて安心しています。キヤノンが長期を見据えた企業運営していることが良くわかり、自分にとっては投資目的に合致した安定経営を続けることを知ることができたことは、大きな収穫でした。
株主の中には株価上昇を期待する人もいるわけですから回答に納得できない、経営スピードが遅いなど、意見をお持ちの株主もいることと思いますが、多くの人は少数株主ですから企業の経営方針も踏まえて投資をしないと思ったリターンを得られないこともあります。株主総会で実際に経営者の声を聴くことの重要性を痛感しました。
個人的には関東にに本社を持つ企業ばかり保有しており、資産のリスク管理の面でどうなのかと思った時期もありましたが、これだけグローバル化した企業ではあまり関係なさそうです。それよりも実際、こうして株主総会に足を運んで話が聞けることの方がよっぽど重要なのだと感じています。
私は中長期の投資スタンスなので、当面キヤノンはホールドすることにし、今後の成長を気長に待ちたいと思います。
おまけ
（お土産はキッチンタイマー）
ちなみに、株主総会のお土産はキヤノン製のキッチンタイマーでした。こういうの、わざわざ買うこともそうないので意外とうれしいです。嫁さんへのいいお土産となりました。
ではまた！
