Bolero(ボレロ)で靴をつくる(1)序章
ビスポークを初体験する
元々靴が好きだった自分は、20代の頃は懐も、また身の丈に合っているかも顧みることなく、「もっといい靴を」と様々なメーカーの靴を物色し、履いては自己顕示欲を満たし、また磨いては所有欲を満たし、日々のローテーションを楽しんでいました。
老舗から新進気鋭のブランドに至るまで、広く目移りしていた頃の自分には、ビスポークシューズ(注文靴)には関心はあれど、必要性までは感じていませんでした。恐らくその頃の自分にとって、靴とは外に向けた主張であり、発露の手段であったから。
翻って、30代になった現在。
この数年間は保有する靴を整理・処分することはあっても、新たに買い求めることはせず(革靴はもう4年、ドレスシューズに至っては5年以上購入していない)、手入れが行き届かずに持て余すことはあれど、無くて困るようなことはないほど十分な環境が整っていました。
そんな状況に風穴を開けたのが、名古屋で渡邊さんがつくるBolero(ボレロ)の靴。
きっかけはオボイストさんのブログ「Mes favoris et musique」でした。オボイストさんが最初に誂えた、ジョドファー(ジョッパーブーツ)の持つ雰囲気に魅了された時のことを、今でも鮮明に覚えています。
依頼者の意向を汲んで作られるビスポークシューズですが、それでもボレロとしての個性は失わない、渡邊さんが手掛ける靴が持つ雰囲気に強く惹かれたのです。
優柔不断ですぐに他に目移りする自分にとって、靴の纏う一貫したオーラのような個性に惹かれるのは自然な成り行きだったのかもしれません。ビスポークを意識したのはその頃からだったと記憶しています。
オボイストさんに、「関東にもたくさんの職人さんがいるのに、なぜ名古屋で、ボレロで靴を作るのか」と聞かれ、その時は上手く答えられなかったのですが、今こうして思い返してみれば、「『ビスポークしたい』という衝動のきっかけがボレロだったから」というのが正確な答えなのかもしれません。
逆説的には「ボレロだからビスポークしたい」のだと。例えば、他のシューメーカーでビスポークをするかというと、恐らく答えは「ノー」で、環境的にも十分揃っている今、ビスポークするなんて今でも考えていなかったと思います。
オボイストさんのお引き合わせで、何度か渡邊さんと関東でコンタクトするチャンスをいただくものの、こちらの都合が悪くお会いするには至らないまま年を跨いでしまいましたが、今年に入りようやく仕事で名古屋に訪れる機会を得て、すかさずアポイントを取りました。
そんなわけで、先日初めての靴のビスポークを体験するに至り、これから何度かに分けて、1足の靴のオーダーから完成までの体験を書き綴っていければ、と思っています。
なお、今回の名古屋訪問では、念願だったオボイストさんとの対面も5年越しに実現、初めてお会いすることが叶いました。当日はお忙しい中、工房での様子の写真撮影や帰りの送迎まで、本当に細やかな気配りをしていただき、感謝の念に堪えません。
いささか固い文章となった「序章」ですが、次回からはまたいつも通りの調子で(笑)、初めてのビスポークを体験した様子をお送りしたいと思います。お楽しみに!