【本】紛争地の看護師/白川優子(小学館)
「国境なき医師団」(MEDECINS SANS FRONTERS、以下「MSF」)の活動に感銘を受け、世界で実際に起こっている凄惨な現状とMSFの活動を、現場の視点から感じ取りたいと思い手に取った1冊。
いとうせいこう氏のルポをまとめた『「国境なき医師団」を見に行く』(講談社)は既に読んだが、あちらはやはり表敬訪問といった印象が拭えず、安全性について十分に配慮された場所の話が中心であった(MSFの組織について十分知ることができたし、文章はさすがの一言だった)。
しかし、著者が看護師として赴任したシリア、イラク、イエメン、南スーダンはいずれも戦場と隣り合わせの最前線であり、その緊迫した様子を本書を通じてありありと読者に伝えてくれる。場所も状況も異なるが、苦しむ人々は皆同様で、運ばれてくるのは戦闘に巻き込まれ傷ついた市民ばかりだ。
遠い日本では報道されることのない、人命がまるでろうそくを吹き消すように簡単に失われゆく絶望的な現状が世界中にあることを知った。そのあまりの凄惨な状況に読み進める中終始胸が締め付けられた。それと同時に覚える、暴力に対するやり場のない怒りと悲しみ。
南スーダンでは実際内戦に巻き込まれ、国連も国際赤十字も撤退した最前線に残り続け、置き去りにされた難民を1人でも多く救おうと奮闘する姿には胸に迫るものがあり、涙した。また人として尊敬の念を抱かずにはいられなかった。
シリアでもイエメンでもパレスチナでも、状況は違えど人々の苦しみは一緒だ。たとえどんな理由があろうとも、戦火の犠牲になるのは武器を持たない市民であり、平和ボケした自分には身につまされる思いさえする。
自分では到底果たせぬ思いを乗せて、3年前から微力ながら寄付という形で毎月支援させてもらっている。医療現場と無縁な自分にはそれしか協力する手立てが見つからず情けない限りだが、自分にもできることから始め、そして継続していかねば。
自分には子どもがいるが、世界には自分の子と同じくらいの幼い子どもたちが今もなお苦しみ、命を落とさなければならない非情な現実があることを改めて知り、そんな思いを一層強くした。
この本はこの先幾度となく読み返すことだろう。そしていつかは自分の子どもにも読ませるはずだ。人として生きる上で、人間の愚かさと、そして良心とを、共に心に刻んでおかなければならないから。この本が常にそのことを教えてくれる。