【本】「国境なき医師団」になろう!/いとうせいこう(講談社現代新書)
「国境なき医師団」(以下MSF)に関心を示すようになったのは最近のことで、細々ながら毎月寄付もするようになり2年余りが経過しようとしています。(当ブログにも少額ですが広告収入があり、サーバー代やドメイン代以上にいただくことがあるので、それらをMSFの寄付に当てています)
MSFに関する書籍を読むのはこれで3冊目ですが、うち1冊はいとうせいこう氏が書いた前書「『国境なき医師団』を見に行く」(講談社)でした。
本書はその姉妹本といった印象で、前書の現地ルポに、MSFで活動する人々のインタビューやMSFの活動に携わるようになった経緯などを収録してまとめた“MSF入門”といった趣の1冊となっています。
「国境なき医師団」という堅い印象や、医師が大半を占めるボランティア集団という思い込みを打破し、MSFをより身近に感じてもらうことを念頭にまとめられています。
特に、他のNPOと違う点(9割が個人からの寄付で支えられている点など)や、半数以上が医師以外で構成されていていることなど、MSFの存在は知っているがベールに隠されたMSFの実態を、著者のとっつきやすい文章で読ませてくれます。
実際に、医療に欠かせない清潔な水や電気の確保、物資の流通や施設の設営まで幅広く担うロジスティシャン、一人でも多くの人々に医療を提供するため1ドルを削り出すアドミニストレーター(経理)、採用活動に携わるリクルートメントオフィサーなどの非医療従事者のインタビューが収録されています。
彼らの思いや背景などを知るほどに、MSFが遠い存在ではないこと、そしてMSFに携わる人々もまた読者となんら変わりない人たちであることに気付き、MSFに対する認識も変わるはずです。
そんな文章に引き寄せられていると、不意に飛び込んでくる世界で起こる惨劇や苦しむ人々の過酷な状況を伝えるルポ。すっかりMSF目線になっている読者には、もはや目を瞑ることも背けることもできず、他人事とは思えなくなっているでしょう。著者の持ち味がいかんなく発揮されているように感じます。
MSFに直接携わらなくても、寄付や遺贈といった形で参加できること、一人ひとりのささやかと思うお金がどんなに貴重なお金であるかを知れば、寄付についてのハードルも大いに下がります。MSFに限ったことではなく、寄付文化の稀薄な日本に何とか一歩を踏み出してもらいたいという著者の腐心が伺えます。
実際に行動に移すか否かはちょっとした勢いの違いですが、行動に起こすと起こさないではその後に大きな差となって現れていきます。意識の無い人にはその後も変化は期待できませんが、少しでも心に留まるものがあれば、いずれその行動にも変化をもたらすはず。
著者も自らができることを模索する中でこの本の執筆に行きついたのでしょう。各自ができることをできる範囲で協力する。自分も寄付という形ではあるけれど(寄付金も本当にささやかですが)、まずはできそうなことから行動することが大切なのだろうな、と思います。
この本も草の根運動のように地道な啓蒙活動の一端ですが、大いに賛同し、多くの人に読んでいただきたい一冊です。
この本で触れられる惨劇や、登場するMSFの人々を通して、すっかり平和ボケしている自分や、同様に漫然とした日常を過ごしている人には心の引き締まる内容に感じるはず。
そして、今後の人生感についても考えを巡らせる、良いきっかけになるかもしれません。