【本】ランニング王国を生きる/マイケル・クローリー著(青土社)他2冊(8月の積読)
7月に続き、8月に読んだ本について備忘も兼ねて書き残したいと思います。
8月に読んだ本は3冊。専ら通勤時間に読むのでペースは鈍行列車並みですが、ハズレが無かったのは救いです。そんな中で今日は「ランニング王国に生きる」(青土社)をご紹介したいと思います。
東京オリンピック・パラリンピックが終了しましたが、皆さんの印象に最も残った競技は何だったでしょうか。私はもちろん趣味でもあるマラソン、6位に入賞した大迫傑選手の力強い走りでした。一方、アフリカ系ランナーたちのゴール直前までの死闘にも手に汗を握りました。
マラソンにおいて上位を独占するアフリカ勢、中でもケニアとエチオピアの強さは突出しています。この本は文化人類学者でありフルマラソンを2時間20分で走る著者がエチオピアでランナーたちとともに走りながら、マラソン王国繁栄の秘密を探求するルポとなっています。
エチオピアといえば裸足のランナー、アベベ・ビキラの印象が強く、その強さの源泉を「貧しさゆえ」、「幼少期からの重労働によるもの」、「生まれ持った身体能力」などといった先入観や固定概念で片付けてしまう人が多く、また人種や民族も異なるのに「アフリカ人ランナー」と一括りにされがちです。
しかし、これらの誤った概念は一蹴されます。エチオピアランナーたちの走ることへの貪欲さ、規律と協調を常に重視する姿勢、そして何よりもランナーたちのランニングに対する信仰にも似たひたむきさを通じて、走ることに対する崇高さや神秘ささえ感じます。
富士山を超えるような標高3千メートルを超える高地トレーニングや悪路を敢えて選んで走るトレーニングなど、自ら進んで厳しい環境に身を投じるランナーたち。そして決して望まない結果であっても気持ちの切り替えが早い点でも学びが多く、目標に向けてどこまでも合理的で無駄がない印象を受けました。
エチオピアといえば、自分が最も好きなコーヒーの産地であり、傑出したランナーを輩出するマラソン大国。コーヒーとランニング、この2つの趣味に関わりの深いエチオピアに一方的な親近感を覚えていましたが、この本でエチオピアランナーたちのランニングに取り組む姿勢に触れたことで、更にその思いを強くしました。
走ることが趣味の人にはもちろん、そうでない人も、ランナーたちのひたむきさと走ることの奥深さに、きっと体がうずいて自分も走り出したくなるはず。コロナ太りで運動不足の皆さん、まずは読書を通じて自分を奮い立たせてみてはいかがでしょうか。
その他の2冊は共に燃え殻さんのエッセイ続編と待望の小説
ちなみに、残る2冊は共に燃え殻さんの本でした。こちらはまた機会があれば感想を書きたいと思います。
「すべて忘れてしまうから」の続編となる「夢に迷って、タクシーを呼んだ」。
慌ただしく過ぎる日常生活の中にあっても、読みながら忘れかけていたチクチクした胸の痛みとノスタルジアを思い起こし、どんなに時間が経っても決して消えることはない感覚があることを実感し、妙な安心感を覚えたりして。
「これはただの夏」、待ちに待った新作だけに一気読みするのはもったいなかったが、ページを繰る手が止まりませんでした。
コロナ禍で”夏”らしくない夏を過ごした人はこの本でもう1つの夏を味わってはいかがでしょうか。9月、夏の終わりに名残惜しさを感じながらサラッと読むには本当にオススメです。
こうなってくるといよいよ長編小説が読みたいなぁとか思いながら、きっと燃え殻さん、本当に燃え尽きちゃうだろうな、と思ったり(笑)。
TAGS: 青土社 | 2021年9月8日