【カビ対策】御徒町TiP-21・NEXTに革靴の丸洗いを依頼してみた

「靴のクリーニング」という新たな習慣

秋に差し掛かり、だいぶ過ごしやすくなり始めた頃、事件はシューズラックで起こりました。

 

革靴に白カビ大発生!!

 

フワフワの菌糸に包まれた靴を持つ手は震え、あまりのショックにヒザから崩れ落ち、頭が真っ白になる、靴好きが最も恐れる最悪の事態。

ようやく夏場を乗り切り、内心ホッとしていましたが、涼しくなって過ごしやすくなるのは人間もカビ菌も一緒のようでして、油断した隙にヤられました。

 

・・・さて、今回の惨事について、その症状をここに晒すのは己の怠慢さを露見する行為であり躊躇われるのですが、あらかじめ症状を見ていただいた方が状況も伝わりやすいため、自分への戒めの意味を込め、また恥を承知の上で、まずは被害状況をご報告したいと思います。

(念のため、お食事前の方、潔癖の方は気分を害す可能性がありますので、そっとパソコンを閉じてください。)

 

被害報告 No.1「Cheaney(チーニー)/ストレートチップ」

「社会人になったら冠婚葬祭用に黒のストレートチップは必ず備えておくように」と言われ、生まれて初めて手にしたグッドイヤー製法の靴。今ではほぼ葬儀専用靴となっています。

当然ながら葬儀は天気を選べず、梅雨の時期に参列した葬儀でしたたか雨に打たれ、その後の手入れを怠り、夏の四十九日ではカビの前兆を確認するも、ステインリムーバーと高濃度アルコール除菌で除去し、乗り切ったと過信していました。

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(コバ部分に再発を繰り返すしつこいカビ)

秋になり気温が下がり始めるとカビは俄然勢いを増し、念入りに除去しても3日も経たずに再発する有様。

もはや自分の手には負える状況にはなく、いっそ諦めて捨てることも考えましたが、葬儀に参列する際はこれ以上相応しい靴もなく・・・、とすっかり頭を抱え込んでしまった1足。

 

被害報告 No.2「Sanders(サンダース)/チャッカブーツ」

あまりの履き回しの良さに、冬の間はこればかりずっと履いていたような気がする「プレイボーイチャッカ」こと、サンダースのマッドガード。

「雨でも雪でもかかってこい!ソールはラバーテープで守られているし、アッパーもスエードだから水も弾くし、手入れだって楽チンだぜ!」・・・なんて思っていたら、完全に考えが甘かった。

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(スエードのカビはどうすればいいかさえ分からない)

アッパー部分に広範囲のカビが・・・。シューズラックの影で見え難かった、だなんて言い訳にもなりませんが、季節性のある靴ゆえ発見が遅れました。

靴の価格的はさほど高価でもないので買い直すことは簡単ですが、愛着ある一足ですのでそう簡単に買い換える、なんて思えるはずもなく、チーニーと同じく頭を抱え込んでしまった1足。

 

自分で除去するのは諦め、プロに問い合わせてみた

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(信頼できるリペアショップに問い合わせ)

チーニーはいくら取り除いても3日もせずに再発してくるし、スエードに至ってはもうどう取り除いたらいいかすら、さっぱりわからない。

全てが面倒になり「いっそ捨ててしまおうか・・・」などと、自暴自棄になりかける中、プロに相談しようといくつかのシューリペア専門店に問い合わせてみました。

 

1軒目「Union Works(ユニオンワークス)銀座店」

最初に電話をした先はユニオンワークス。

こちらには以前、Church’s(チャーチ)のGrafton(グラフトン)が水没し、カビてしまった際にお世話になった実績があります。

当時は帰り道でスコールに遭い、靴の中まで完全に浸水。コバもインソールもカビてしまったんですよね。

その時、ウェルトのまき直しからオールソール、そして靴の丸洗いまでまとめてお願いしたのでした。

(過去の記事はこちら)

ガッテム!グラフトンをカビさせちまったよ!失敗から学ぶカビ防止策(2015年6月21日)

Church’s Graftonのオールソールとリウェルト、それからカビ除去について(2015年9月17日)

Church’s(チャーチ)グラフトンの大手術・退院(2015年11月29日)

以来、カビが再発することもなく、実績もあることから全幅の信頼を寄せている困った時の”駆け込み寺”的存在。

そこで今一度丸洗いに掛かる費用を確認したところ、「1足4,000円から」とのこと。

う~ん、2足で8,000円かぁ・・・。前回のグラフトンと靴の価格で比べるのはどうかと思いますが、今回は比較的安価なチーニーとサンダース、ちょっと躊躇してしまいます。

 

2軒目「RESH.(リッシュ)銀座三越店」

そこで次に電話をしたのは、銀座三越のRESH.(リッシュ)。

ユニオンワークスと比べ、メニューは全体的にリーズナブルな価格設定で、即日渡しなど仕上がりも早いので、オールソールを除く修理は大体こちらにお願いしています。

ユニオンワークスと比べて価格面で大きく差が出ることを期待していましたが、こちらは1足3,500円から。残念ながらさほど大きな差はありませんでした。

またその内容も、丸洗いしてM.モゥブレィのモールドクリーナーでカビの再発を防ぐ、といった「家庭でできる内容とそこまで大差はない」とのこと。・・・う~ん。

 

御徒町「TiP-21・NEXT」のクリーニングに望みを託す

こうなると丸洗いに対して消極的な気持ちが勝るようになり、いよいよ「処分」と言う言葉がチラつき始めたそんな時、インターネットでこんな記事を見つけました。

「靴の丸洗い法を自分で見つけた人の話」デイリーポータルZ

「靴のクリーニング」

その方法は、肌に触れても害のない特殊な溶剤で靴を洗い、その後オゾン乾燥にかける、というもの。

特殊溶剤については成分は企業秘密のため、詳細や効果のほどはわかりませんが、オゾン乾燥はカビの抑制効果が高いと聞いたことがあります。

記事では、雨による水染みを除去してきれいにするためのクリーニング体験について書かれていますが、「これならカビ除去も可能では」と思い問い合わせると、案の定カビ除去も対応可能、再発抑制にも効果有りとのことでした。

そして、驚くべきはその料金。

記事には女性のパンプスの価格しか掲載されていなかったのですが、男性の革靴のクリーニング料金についてお伺いすると以下の通り(税抜)。

  • 紳士靴 1,200円
  • ショートブーツ 1,400円
  • ハーフブーツ(ふくらはぎを覆うくらい) 1,900円
  • スエード靴 +160円
  • カビがひどい場合 +300円

・・・安い!!

3足頼んでも前出のお店の1足の料金(実際は上記価格よりさらに安かった・・・)。

これなら、ダメ元で試してみる価値は十分にあるし、もしダメだった時も諦めがつきます。

そんなわけで最後の望みをNEXTに賭けて、東京・御徒町まで向かったのでした。

 

「女性が持って来る靴はこんなもんじゃない」

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(ひっそりと佇むお店は診療所のような雰囲気)

御徒町駅前、賑わいを見せる多慶屋の脇を通り抜けると、先ほどまでの喧騒が嘘のように閑静な街並みへと一変。下町情緒と異国の雰囲気が入り混じる路地を抜けたところにひっそりとそのお店はありました。

表の看板には「ドイツ式 足と骨のトラブルを健康的にトータルケアします」とあり、靴の修理屋というより、どこか診療所のような佇まい。

カウンターのホワイトボードには、足のトラブルの治療や矯正の予約と思われる書き込みでビッシリと埋まり、かなり人気の様子。

「ごめんください」と声をかけても出てくる人はなく、店の奥からは「ゴシゴシゴシ・・・」と、何やら熱心にモノを磨く音だけが響く店内。

カウンターのベルに気付き鳴らすと、ようやく「は~い」と返事があり、しばらくして優しい顔をした初老の店主が出てきました。

そこで以前電話でカビについて相談した旨を伝えると、「あぁ、はいはい」と言って、持ち込んだ靴の状態をチェック。

自分でカビを取り除いてしまうとどこにカビが発生していたか状態がわからなくなってしまうかと思い、そのままの状態で持参したので、「こりゃひどい」とでも言われるものと覚悟していましたが、「あぁ、なるほど」とさして驚いた様子はなさそう。

恐る恐る「(カビの状態)ひどいですか・・・?」と尋ねたら、「ははっ、女性が持って来る靴はこんなもんじゃないから」と笑って、伝票を書き始めました。

店主の言う通り、伝票にはカビがひどい場合にかかる割増料金は記載されず、「えっ、これで大したことないのか」と、内心ちょっと驚いてしまいました。

 

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(電話で聞いた料金よりちょっとずつ安い)

「じゃ、一週間後に取りに来てくださいね」と言われ、お会計をすると、お釣りが足りなかったとみえて、「ちょっと待ってて」と店先の自販機に向かい、炭酸飲料を買ってお金を崩し、渡してくれました。

終始気さくな印象で、色々と聞いてみたかったのですが、お店も1人で作業も忙しそうだったし、こちらも子連れだったのでこの日はすぐに帰宅。

しかし、短時間でも店主とのやり取りを通じて、実績を重ねてきたゆえの確かな安心感を強く感じ、長年問題だった革靴のカビ対策について一筋の光明が刺し込んだような気がして、大いに期待が膨らむのでした。

 

クリーニング効果、カビ除去だけでなく垢抜けた印象に

そして1週間後、再び子どもを連れて靴を受け取りに伺うと、店主は先週と同様、奥で作業に専念していました。

呼び鈴を鳴らすと子連れの自分に気付き、「あ、はいはい、仕上がってますよ」と、棚から依頼していた靴を出してきてくれました。

 

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(シミも残らずカビもすっかり落ちた)

早速確認をすると、2足ともカビはもちろん、細かいほこりや汚れまできれいに落とされ、施術前と比べてかなりさっぱりとした印象に。

サンダースのスエードなんて、どうしたものかと途方に暮れていただけに、まるで購入当初に戻ったかのような毛並みに、ちょっと感動してしまいました。

 

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(さっぱり垢抜けた印象のチーニー)

カビが生えるたびにステインリムーバーで処置していたため、カビはこすり落とすイメージがありましたが、クリーニングから戻ってきた靴はいずれも拍子抜けするほど自然な仕上がり。

レザーにとって有害な薬剤は使わず、人が触れても安全な特殊溶剤で洗い、またカビや汚れをこすり落とすといった革が痛む処置をしていないことは、仕上がりの状態を見れば明らかです。

その証拠に、靴底に塗ったシュークリームの色は一切落ちていませんでした。

 

水染みのクリーニングであればその変化を見比べることもできるのですが、今回はカビ除去のため、表面はきれいになっても、革の繊維に入り込んだカビの根はどこまで落ちているか、一見するだけでは判断できません。

しかし、戻ってきた靴はいずれも、風雨に晒され、クリームやスプレーを塗り重ねた靴に漂う、あの重苦しい雰囲気から解放されたようにリフレッシュされ、軽やかささえ感じます。

 

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(廃棄寸前だった靴が生き返った)

嬉しさのあまり、店主に「これでもうカビは再発しませんかね?」なんて愚問を投げかけたら、「う~ん、保管方法次第だね。汚れたらすぐに取り除く、保管する時は風通しのいいところに置く、雨に濡れたら十分に乾かしてからしまう、中途半端でしまうのが一番ダメ」と真っ当な答えが返ってきました。

雨に濡れたからオゾン乾燥だけ依頼に来る人もいるそうで、こんなに身近で気軽に依頼できるなら自分もこれから頻繁にお願いしたいと、心から思ったのでした。

 

靴のクリーニングはもっと身近な存在であるべき

今回、靴のクリーニングを経験して実感したのは、「靴の丸洗いは汚れやカビがひどい時の最終手段」ではなく、ずっと身近なケア方法だということです。

リペアショップの丸洗い料金設定に、どこか特別な処置だというイメージを抱いていましたが、リペアショップは修理が専門、革のクリーニングにはNEXTさんのようにクリーニング専門店があるのだと気づかされました。

この価格なら気兼ねすることなく靴をクリーニングに出せるし、そうすれば今後はもう、この2足のような不幸な犠牲靴を出すことなく、カビも未然に防げるかもしれません。

万が一カビが生えてしまっても、クリーニングに出せば何とかなることもわかったことで、カビはさほど怖い存在ではないのかもしれない、とも思えてきます。

自分はきっと、カビそのものを恐れていたのではなく、一度生えたらエンドレスで繰り返されるカビとの戦いと、丸洗いを外注に出す際の高額な費用に怯えていたのだと思います。

しかし今回、そのどちらの不安も払拭できた気がするのです。

 

例えば、季節性のある靴はシーズンが終わるたびに、また通年で履く靴は悪路で汚れてしまった都度、洋服をクリーニングに出すように、靴もまたクリーニングに出せばいいのだと思うと、ずっと気持ちが楽になりました。

それに、これまでは常に天候を気にしながら靴と向き合ってきましたが、これからはもっと自由に、その時の気分で靴を選ぼうと思えるようにもなりました。

日常のカビ対策はモールドクリーナーで良いかもしれません。しかし、万が一の際に頼れるお店があるとわかった今、これほど心強く感じることはありません。

(ちなみにステインリムーバーや高濃度アルコールでは何ら根本的な解決にはならないことは、この数年の経験で実感しました。家庭での対策で最も効果的だったのはモールドクリーナー。シュッとスプレーするだけで本当に効果があるのか懐疑的でしたが、再発抑制効果は大変高いです)

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(再びローテーションに復帰した2足)

クリーニングから帰還して早1ヶ月以上が経過しましたが、その後2足はもうカビを再発させることなく、無事にローテーションに復帰しています。

一歩間違えば捨てられる運命にあった靴たちが、こうして生まれ変わって再びシューズラックに帰ってくると、カビ除去に手を焼きすっかり離れていた靴への愛着も、今まで以上のものとなって戻ってきました。

自分にとって新しい習慣として定着するであろう靴のクリーニング、これからは定期的にお世話になると思います。

ついてはNEXTの店主にはいつまでもお元気で、靴のクリーニングサービスを末永く続いてくれることを願って止みません。

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