革靴をめぐる冒険【最終話】Bolero & SusieSvelt 編(完成)
昨年(2020年)の欲しい物リストにアップし、目標の1つに掲げていたレザーシューズ。その後、実際にオーダーするに至り、あとは完成を待つばかりでしたが、3月、とうとう待望の荷物が届き、ついに1年越しの思いが実現となりました。
今回は、仮縫いはなく約9カ月で完成。当初は昨年末の完成との話もありましたが、イギリスから取り寄せた革の入荷が遅れた影響で製作開始も大きくずれこみました。ただ、待つ時間は自分にとって全く苦ではなく、もう半年は掛かると思っていたくらいで。
元々オーダーの動機は次男の誕生がきっかけこともあり、次男の誕生日に合わせたかのようなタイミングに、むしろお祝いが届いたみたいで嬉しかったです。
中にはBolero(ボレロ)のシューボックスと、SusieSvelt(スージースヴェルト)の小箱が1つずつ。同じ革を使った靴とベルトのセットとなります。
納品を一緒にして欲しいとお願いし、完成したベルトはスージースヴェルトの鈴木さんからボレロの渡邊さんに託され、靴と一緒に納品されました。
完成したばかりの靴とベルト、さっそくご紹介させていただければと思います。長文となりますがお付き合いください。
Bolero Shoemaker/3 eyelet U-Tip Shoes
自身2足目のビスポークとなったボレロ。1足目にしてほぼ完璧な履き心地だったフィッティングに「あえて言うなら・・・」と捻り出した改善点が反映され、更にアップデートされたラストで作られたのはシンプルな1足目とは対称的な3アイレットUチップ。
次男も生まれ、今後はますます自分のことにお金が使えなくなるから、靴もこれで買い納め。だったら最後は既存のモデルを参考にするのではなく、自分の欲望を詰め込んだモノにしたいと、渡邊さんにやりたいことをぶつけました。
心残りがないよう自問自答して描いたイメージは、グレインレザーのスキンステッチUチップ。
グレインレザーはこれまで欲しいと思いながら手が出なかった素材であり、Uチップも憧れながら似合わずに縁のなかったデザインです。
ただ、Edward Green(エドワードグリーン)のDover(ドーヴァー)やJ.M.Weston(ジェイエムウエストン)のゴルフのような5アイレットではカントリーライクな印象が強く、グレインレザーを使えばなおのこと。
しかし、その仕様ではこれまでの経験上自分に似合わない。そこで、無い頭をひねり、5アイレットではなく2アイレットにする案を持ち込みました。
無茶苦茶な依頼だったかと思いますし、どう1足の靴に落とし込んでいくか渡邊さんも相当苦慮されたと推察します。
しかし、それらを見事にまとめ上げ、こんなにバランスの取れた、そしてボレロの雰囲気をまとった精悍な靴に仕上げるなんて、想像の遥か上を行き、本当に感動しました。
Uチップに2アイレットでは甲の部分が間延びした印象になり、どうもバランスが良くない。そこで話し合った結果、2アイレットから3アイレットに変更し、外羽根も直線的ではなく曲線を取り入れてもらうことにしました。
結果的に、あまり見かけない3アイレットUチップという独創的なデザインと仕上がりました。これもビスポークから生まれた産物ですから、特別感があって嬉しいですね!
美しいサイドビュー。自分の足の形の合わせ、甲はかなり低めに作られていることがわかります。外羽根でも野暮ったさはなく、直線と曲線のメリハリが優雅で、靴の美しさを引き立てています。
そしてお気づきでしょうか。実はヒールカップ外側にイニシャルが入っています。
ヒールカップには子供たちのイニシャル「H」と「A」がそれぞれ刻まれています。イニシャルの大きさなどは全て渡邊さんにお任せしましたが、絶妙なバランスで入れてくれました。
当初はアイレットの横のもう少し目立つ場所に入れる予定でしたが、グレインレザーであることから穴を穿ってもシボに埋もれて思った以上に目立たなかったため、「芯の入っているヒールカップに入れてはどうか」と提案し、採用いただきました。
この靴では唯一自分が役に立った、数少ないグッドポイントです(苦笑)。
ずっと憧れだったライトアングルスキンステッチに、思わずニンマリしてしまいます。
トゥは前回のスクエアチゼルから全体的に丸みを持たせてもらうよう依頼。ただし、ボレロらしさが消えないよういい塩梅で、と申し添えていました。
つま先部分にセンターシームが入っていないのは外羽根部分でつないでいるから。
そのため、つま先だけでなくヒールもシームレス仕様になっています。これ、地味にカッコ良くないですか?
自分の足にしかフィットしない、絞り込んだソールはシングルでヒールカップも小さめ。アウトソールはカラス仕上げにし、今回も事前にビンテージスチールを履かせてします。
そして、この靴のアクセントにもう1つ、シューレースの先にタッセルを付けてもらいました。
このタッセルも全体のバランスを考えて渡邊さんの方で小さめに作ってくれています。目立つタッセルはバランスを欠くと悪趣味ですが、大変バランスが良く、品良く映ります。
初めてこの靴を見た時、まだ一度も履いていないのに「まさに自分そのものだ」と感じました。自分の好みを反映した靴なのだから自分らしくて当然なのですが、自分という人物を体現したような靴、そんな風に真っ先に思ったのが第一印象でした。
SusieSvelt/35mm Waist Belt
そして、このピングレインレザーという特殊な素材で靴を作った時、その靴に合わせるベルトは絶対に見つからないだろう、そんな思いから同じ革を使いベルトの製作も並行して依頼しました。
お願いしたのはスージースヴェルトの鈴木さん。渡邊さんとは付き合いがあり、革の受け渡しなどがスムースにできることはもちろん、何よりもその確かな腕は数々の作品を通じて強く感じ、今回無理を言ってお願いしました。
コロナ禍、なかなか愛知県の工房まで訪問することができないため、Eメールとサンプルのやり取りだけで仕様を決め、製作いただくという異例の方法でオーダー。
靴以上にベルトについて全く知識がなく、鈴木さんには相談してばかりでしたが、何度も交わされるEメールのやりとりにも辛抱強く付き合っていただき、年始にようやく仕様が決定。約2カ月で完成しました。それがこちら。
靴にも負けない素晴らしい出来!仕上がったベルトを手にして、そのプロフェッショナルな仕事ぶりに感嘆しています。
靴以上に選択肢が少ないベルトの仕様ですが、これにもいくつかのこだわりがあります。
まず幅は、一般的なベルトの30mmではなく少し広めの35mm。これはジーンズなどに合わせても細過ぎないことを考慮し、あえて幅を広めに取りました。
ダークブラウンのベルトにはグリーンの糸でステッチが入り、バックルにはイタリア製真鍮のアンティークシルバーバックルを取り付けました。ちなみに、バックルだけは自分で選んで調達しています。
35mm幅のバックルとなるとバックルも自然と大きくなりがちで悪目立ちしやすいため、敢えて小ぶりのモノを探してきました。こうしてみるとやはり存在感がありますので、意識して小ぶりのモノを選んで正解でした。
ベルト穴は2つ。1つはスラックス等の通常のドレスパンツ用。もう1つはジーンズやPT01などの股上の浅いパンツ用。決して太った時の予備穴というわけではありません(笑)。
裏地は当初トエルスコのヌメ側の予定でしたが、サンプルで実際に使うピングレインレザーを見ると思った以上に色が暗かったため、急遽黒のスムースレザーに変更してもらいました。シックにマッチしてこちらも大正解でした。
剣先はスクエア型、ウォッチベルトで言うところのIWC型です。
靴とベルトが揃って完結した集大成
素材が同じ靴とベルト、合わないはずがありません。きっと靴しか作っていなかったら、履くたびに合うベルトが無いことに気を揉んで、常にストレスを感じていたはず。
靴だけでも素晴らしいですが、こうして靴とベルトを並べてみると、やはりベルトが揃ってこそ完成するように感じ、今回お願いをして本当に良かったと感じています。
この靴とベルトの完成をもって、僕の靴を巡る旅は終幕です。
こんなにワクワクすることも、もう今後はないと思うと寂しい限りですが、自分の靴に対する欲求は全て昇華され、こうして具現化されたモノを手にした今は、満足感で満たされ、とても穏やかな気持ちでいます。
いずれ2人の子供たちが靴に興味を持ち始めたら、嬉々としてこの靴とベルトを作った顛末を話すことでしょう。
この靴を履くたびに靴熱が高まって、いずれ「また新しい靴を・・・」なんてことがあるかもしれませんが、とりあえず自分の人生における1つの区切りとして、最高のピリオドを打つことができました。
関わっていただいたボレロの渡邊さん、スージースヴェルトの鈴木さん、そして職人さんたちに引き合わせてくれた親友オボイストさん、本当にありがとうございました!
ここまで長文にも関わらずお付き合いいただき、ありがとうございました。今後は使用感、そして変わりゆく変化をご紹介できればと思います。引き続きこの靴たちの行く末も見守っていただければ幸いです。それでは、また!
TAGS: Bespoke・Bolero・MTO・SusieSvelt | 2021年3月12日